視覚障害者の屋内誘導を実現します。

  • 警告タイル
  • 誘導タイル

屋内用点字ブロック開発日記

視覚障害者が屋内を自由に移動できるように、屋内用点字ブロックを開発中。高齢者や車椅子・ベビーカー利用者等にもやさしい、突起の小さなブロックです。
視覚障害者との地道な研究や成果を報告していきます。

白杖による誘導部案内の線状突起形状の検出に関する研究2
10mの歩行実験

前回、線状突起パターンを静止状態で検知し、わかりやすい突起形状を確認しました。今回は、10mの実験空間を用意し、直進歩行の容易性を確認する実験を行いました。


1.線状ブロックの試作
 ・線状突起本数:3種(1本、2本、3本)
 ・線状突起高さ:2種(1mm、2mm)
 ・線状突起幅:1種(30mm)
 ・材質:基板は塩化ビニール製タイル(25×50cm)、突起は軟質塩化ビニール
 ・試料数:計6種

2.被験者
リハビリテーション施設の入所・通所者全11名。

3.実験方法
 直線10mの経路を作成し、歩行実験を実施しました。評価方法は、到達率(10mの歩行中、両側1m以上逸れた場合はエラーとする)、各試料の歩行時間としました。試料は検知実験①で、評価に影響のなかった突起幅を30mm(詳細は結果で後述)に統一し、突起本数1本、2本、3本、突起高さ1mm、2mm、の計6種、比較試料としてJIS規格型を加え、計7種を調査しました。JIS規格型の試行は最後とし、それ以外の6枚はランダムに提示されました。歩行後、歩行中の検知容易性について、5件法で尋ねました。歩行実験前に、被験者の普段の歩行速度を計測するため、10m歩行の歩行時間を計測しました。

また、この歩行実験では、実験中に歩行に慣れ、突起に関係なく、歩行可能になること(学習効果)が予想されるため、被験者間の学習効果の程度の差(アイマスクと指定の白杖利用のため被験者間の学習効果にばらつきが予想される)をなくすため、実験前に十分な練習を行ないました。さらに、10mとやや歩行距離が短いため、学習効果により突起がなくても歩行できる可能性があるため、突起のないフラットな状態での歩行も調査しました。


・実験条件:被験者はすべてアイマスクをし、こちらが指定した白杖(長さ120cm、チップタイプ)を使用し、振り方はスライドテクニックを指定しましたた。聴覚情報の遮蔽は行っていません。なお、普段の歩行速度の計測においては、アイマスクは着用せず、白杖も使い慣れた自分の杖を使用し、被験者が通常歩行する形態で計測を行ないました。

研究

研究

4.実験結果
 突起幅を30mmに統一し、突起高さ、突起本数を変化させ、6種の試料にJIS規格型を加え、10mの直進歩行実験を行ないました。またフラットな状態(以下フラット)での歩行を6種の試料の歩行実験の前後に2回実施しました。歩行実験の歩行順は、普段の歩行、フラット、6種の試料(ランダム提示)、フラット、JISの順です。その評価方法は、歩行時間の測定、5件法による歩行中の検知容易性を質問しました。その結果、各試料、JISおよびフラットでもエラー(両側に1m以上逸れる)は発生しませんでした。また、歩行速度も普段の歩行速度と変わりませんでした。十分な練習を行ったため、10m程度の歩行では、突起の有無に関わらず、直進歩行が可能になったと考えられます。


 5件法による歩行中の検知容易性さの評価については、JIS規格型と各試料の評価値を比べると、試料D(突起高さ1㎜、突起本数1本),E(突起高さ1㎜、突起本数2本),M(突起高さ2㎜、突起本数1本)で統計的に有意に低い評価となりました。一方試料F(突起高さ1㎜、突起本数3本),N(突起高さ2㎜、突起本数2本),O(突起高さ2㎜、突起本数3本)はJIS規格型に比べ、統計的有意差はありませんでした。評価としては、突起高さは高いほど、突起本数は多いほど評価の高い傾向にあることが分りました。

本研究は、平成23年度日本学術振興会科学研究費補助金奨励研究によって実施されました。

出典:白杖を用いた視覚障害者誘導用線状突起形状の検出に関する研究-
日本福祉のまちづくり学会第13回全国大会梗概集,柳原 崇男,桑波田 謙,原 良昭

 

 

 

白杖による誘導部案内の線状突起形状の検出に関する研究1
静止状態での検知実験

前回までに、白杖による分りやすい点状突起形状について実験を行いました。次に誘導部に用いる線状突起について研究を進めます。
 線状突起の研究1として、18種類の線状突起パターンを試作し、静止状態での検出を計測しました。


1.線状ブロックの試作
 ・線状突起本数:3種(1本、2本、3本)
 ・線状突起高さ:2種(1mm、2mm)
 ・線状突起幅:3種(20mm、30mm、40mm)
 ・材質:基板は塩化ビニール製タイル(25×50cm)、突起は軟質塩化ビニール
 ・試料数:計18種

2.被験者
リハビリテーション施設の入所・通所者全11名。

3.実験方法
 線状ブロック2枚を被験者から見て線状突起が縦方向(直進方向)および横方向(横断方向)に敷き、被験者はその前に立ち、杖を一振りしてもらい、突起検出の可否(検知した、検知していない)を質問しました。その後、Lichert’s scaleを用いて確信度を5件法(1.非常に分かりにくかった~5.良くわかった)で尋ねました。このLichert’s scaleに基づく確信度の分析ではそれぞれの評価値の平均値を用いました。試料は上記の18枚に突起検出の可否のダミーとして、突起のない(フラットな)塩ビタイルを6枚用意し、計24枚をランダムに提示しました。被験者には、ダミーの存在を伝え、必ずしも突起のある試料のみが提示されるわけではないことを教示しました。質問は、まず突起検出の可否を訪ね、突起を検出したと回答した場合のみ確信度を訪ねました。ダミーに対して突起を検出したと回答した場合も確信度を訪ね、誤答したことは、被験者に伝えていません。
 
実験条件:被験者はすべてアイマスクをし、こちらが指定した白杖(長さ120cm、チップタイプ)を使用し、振り方はスライドテクニックを指定しました。白杖を振ることによって発生する音(周辺床面とブロックの凹凸差による)が検知に影響する可能性があるため、ホワイトノイズを流したヘッドフォンを着用しました。

 

実験の状況です。

研究

 


実験の状況です。

研究

 

 

4.実験結果
 検知率は18枚の試料とも、直進方向100%、横方向99.4%であり,突起のない試料を検知した割合(誤答率)は直進方向0%、横方向1.7%(3/161回)でした。 
 図3は各試料の確信度(直進方向)の平均値を示したものです。その結果、突起高さ2mm、突起本数3本の試料3種類が高く、突起高さ1mm、突起本数1本で突起幅30㎜、40㎜の確信度が低いことが分かりました。
 次に、突起高さ、突起本数、突起幅を因子とした3元配置分散分析を行ったところ、突起高さの主効果(F(1、160)=15.515、P<.01)、突起本数の主効果(F(2、160)=12.258、P<.01)が認められました。一方、これらの相互作用は認められませんでした。このことよりも、突起高さと突起本数が確信度に影響していると考えられました。これにより、突起幅は確信度への影響がないため、今後の検知実験②③においては、突起幅を30mmに統一しました。

本研究は、平成23年度日本学術振興会科学研究費補助金奨励研究によって実施されました。

出典:白杖を用いた視覚障害者誘導用線状突起形状の検出に関する研究-
日本福祉のまちづくり学会第13回全国大会梗概集,柳原 崇男,桑波田 謙,原 良昭

 

 

 

白杖による分岐点案内等の点状突起形状の検出に関する研究2
糖尿病性網膜症の検知傾向

前回ご案内した検知実験の被験者のうち、5名が糖尿病性網膜症患者でした。そこで、検知実験において、糖尿病網膜症患者の検知率の傾向を調べました。

 

研究

 

図は検知実験の被験者を、糖尿病性網膜症患者とそれ以外に分類し、確信度の平均値を示したものです。糖尿病によって発症する合併症として、末梢神経障害があり、今回の糖尿病性網膜症の被験者も感覚麻痺の自覚症状がありました。そこで、糖尿病患者と非糖尿病患者に分類し、比較を行ったところ、相対的に糖尿病患者の確信度が低いことがわかりました。特に、突起高さ1mmと2㎜の確信度の総平均を比べると、突起高さ1mmにおいて、有意な差が得られました。ただし、突起高さ1mmにおいても、糖尿病性患者の検知率は100%でした。

現在、糖尿病性網膜症は、視覚障害の原因疾患の約2割を占め、緑内障に続く2番目に多い疾患であるため、今後、ブロックの形状を決定するためには、これらの実験結果を踏まえた検討が必要だと考えています。

出典:白杖による分岐点案内等の点状突起形状の検出に関する研究-視覚障害者のための屋内誘導システムに関する研究-

日本福祉のまちづくり学会第12回全国大会梗概集,柳原 崇男,原 良昭,桑波田 謙

 

 

 

神奈川県ライトセンターでの調査

2年ほど前に、神奈川県ライトセンターで視覚障害の職員の方3名に、屋内用点字ブロックの調査を行いました。

調査の目的は、視覚障害者にとって、屋内用点字ブロックは有効かどうかを確認することです。

被験者の方は、3名とも白杖のエキスパートでした。2名は全盲で、1名は障害1級ですが光覚がありました。
光覚のある方には、遮光マスクをつけていただいて調査に入ってもらいました。
3名とも、屋内用点字ブロックを体験するのは初めてです。

調査会場は、2つの経路を作成しました。
1つ目は、「床の素材差による誘導の有効性に関する調査」と同様にシンプルなL字型経路で、直進、左折、直進と辿ります。

神奈川県ライトセンター

写真はL字型経路

2つ目は、「ヨッテク」と同様に、経路の途中に2つの分岐点がある複雑な経路で、直進、2つ目の分岐点を左折、直進と辿ります。
それぞれ、カーペットの空間に塩ビ製タイルを埋め込んで経路とし、分岐点には突起の小さな警告ブロックを設置しました。
警告ブロックは、突起の高さ0.5MM、円形で千鳥格子配列としました。

神奈川県ライトセンター

写真は、2つの分岐点がある複雑な経路

調査の方法は、事前に触知図で経路をイメージしてもらい、スタートの合図でゴールを目指してもらいました。

神奈川県ライトセンター

写真は、経路を辿るの様子

結果は、1つ目のL字型経路は、全員問題なく目的地に到達しました。
スタートの合図で、瞬時にスライドテクニックを用いて、経路を逸れることなく辿ることができました。
2つ目の複雑な経路では、2名は問題なくゴールにたどり着けましたが、1名はゴールにたどり着けたものの、2つ目の分岐点を検知できずに行き過ぎてしまいました。
この方は、大柄で歩幅も大きく、杖も大きく振るために、警告ブロックに杖が当たらず、検知できなかったのが理由です。

調査から分ったことは、
・カーペットにタイルを埋め込んだ経路は、白杖で検知可能である。
・白杖を使い慣れている視覚障害者の歩行速度は、使い慣れていない人よりも速い。
・スライドテクニックなら、突起高さ0.5MMというわずかな突起でも検知可能である。
・警告ブロックの配置方法は、白杖の軌跡を考慮しなければならない。
・事前に経路情報を伝えることで、経路検知が容易になる。

一方で、調査を通じて考えさせられることもありました。
・警告ブロックのベストな突起形状はどのようなものか。
・突起形状や突起高さ、突起の配列方法などと、検知しやすさの間には、相関関係があるのではないか。
・誘導部は突起があればより分りやすいのではないか。
・受障暦が浅く、歩行訓練したての方が、利用できるのか。

これらの疑問を解決するには、イベント的な調査だけでなく、科学的な検証が求められるでしょう。
次回以降は、科学的な根拠を導き出す取り組みについて話していきたいと思います。


株式会社クワハタデザインオフィス
桑波田謙
ホームページ

 

 

 

屋内用点字ブロックの体験イベント

ちょうど2年前の2009年7月に、パシフィコ横浜で「ヨコハマ・ヒューマン&テクノランド(通称ヨッテク) 福祉を支える人とテクノロジー」という福祉イベントがありました。弊社も協賛させていただき、会場内に屋内用点字ブロックの体験コーナーを設置して、多くの来場者に体験していただくことが出来ました。
6.5メートル×4.5メートルの体験コーナーにカーペットを敷き詰め、そこに屋内用点字ブロックの誘導経路を設置しました。経路は、縦に一直線とそれを交差する2本の横直線で、分岐点、スタート地点、ゴール地点には警告パターンが配置されています。
体験者には、ゴーグルで視覚を遮蔽して、白杖を使って経路を辿っていただきました。

体験者は合計66名、平均年齢28歳、健常者が中心でしたが視覚障害者も3名、下肢障害で杖や車椅子利用者も体験されました。小学校低学年のお子さんや、高校生も多くて、とてもにぎやかな体験コーナーとなりました。
多くの体験者が、白杖を触れるのも初めてで、ゴーグルをつけて白杖で歩くことに不安を感じながら、とても興味をもって楽しんで体験してくれたのが印象的でした。

体験者には、「スタート地点から2つ目の交差点を右折してゴール地点で止まる」ことをお願いして、行動分析を行いました。

屋内用点字ブロックの体験イベント

介護を勉強する学生さんが多く来場していました。

 

屋内用点字ブロックの体験イベント

高校生も楽しんで体験していました。

屋内用点字ブロックの体験イベント

小学生は俄然やる気満々で、何回も行ったり来たりしていました。

屋内用点字ブロックの体験イベント

小学校低学年のお子さんには白杖が長すぎましたが、それでも上手く使っていました。

屋内用点字ブロックの体験イベント

盲導犬の体験者もいらっしゃいました。とても楽しんでいらっしゃいました。

屋内用点字ブロックの体験イベント

車椅子の方も体験されました。とても使いやすいと評価していただけました。

結果は、ゴールにたどり着けた人59名、たどり着けなかった人9名。たどり着けなかった人は、交差点をうまく検知できずに右折できずそのまま直進してしまうケースと、真っ直ぐ歩行できずに経路を外れてしまうケースがありました。
視覚障害者の2名は、問題なくクリアできました。


体験者にはいくつかのアンケートをお願いしました。
経路は分かりましたか?との質問に、58名が「はい」、5名が「いいえ」、3名が「どちらでもない」と答えました。
分岐点は分りましたか?との質問に、53名が「はい」、6名が「いいえ」、7名が「どちらでもない」と答えました。
屋内用点字ブロックを歩いた感想は、47名が「歩きやすかった」、10名が「歩きづらかった」、8名が「どちらでもない」と答えました。
仮に屋内にこのブロックが敷かれていたらどう思いますか?との質問に、46名が「気にならない」、19名が「気になる」と回答しました。
みなさん初めての体験でしたが、とても上手に経路を検知しながら歩くことが出来たと思いました。
7メートル程度の移動距離ですが、屋内誘導の可能性を改めて感じることが出来ました。
下肢障害で杖を使われている方に、歩きやすいととても好評でした。
車椅子利用の方も体験されました。全く段差や振動は感じないとのこと、とても使いやすいと評価していただけました。

最後に、いわゆるJIS規格型点字ブロックについて、「屋外や屋内で点字ブロックが敷かれていたら、あなたはどうしていますか?」と質問したところ、「特に気にしない」が13名、「気にしながら歩く」が27名、「なるべく避けて歩く」が25名という結果でした。
やはり多くの人は、いわゆる点字ブロックを気にしながら歩いているようです。

このヨッテクというイベントは、とてもフレンドリーで楽しいイベントです。今年で9回目を迎えましたが、是非今後も継続してほしいと思っています。
ヨッテクのホームページです。


株式会社クワハタデザインオフィス
桑波田 謙
ホームページ

  新しい記事 古い記事